
ケータラー往復書簡No.004「みかん大福と笑顔」
アベさん
こんにちは。アベさんはいつもエネルギッシュで美味しいタイ料理を作られていますよね。タイといえば、以前、私が東北沢で住んでいた部屋は、タイ・バンコク出身の友人が住んでいて、マゼンタピンクやぱきっとしたグリーンなど、とてもカラフルな部屋だったのを覚えています。
先日、安田さんから「最近美味しかったまかないや、仕込み中の楽しみについて」問いをいただいたのですが、作るものがお菓子だけに、まかないという感覚がなくて随分考え込んでしまいました(笑)。
最近の仕込み中の楽しみは、一緒に作る仲間が笑顔になることかな。と感じています。
先日、みかん農家の女性が工房に来られました。「農家の女性が規格外の果物を活かすことを考えないといけないのだ」と、初対面にも関わらず手持ちのレシピをたくさん見せてくださり、みかんへの愛を語ってくれたのです。勢いに圧され、早速この女性に「みかん大福」を習うことになりました。
今回の主役は「十万みかん」で、農協で規定されている最小サイズよりさらに小さいもの。規格外品は加工原料として流通することもありますが、今回は出荷されずに貯蔵されていたものを使いました。
皮をむいたみかんを丸ごと白餡ともち生地で包むのですが、なかなか難しい。そこで先生となってくれた女性が「私の技を見て!」と生地を紡ぎ出すタイミングや包む動作を示してくれました。手わざはもちろんのこと、その時の晴れやかなお顔といったら、忘れられません。自分が温めてきたことを伝え、誰かが受け取ってくれるというのは、大きな喜びですよね。工房の一角で、このようなシーンにでくわせること、これが最近の私の楽しみで、小さな幸せです。
田舎で暮らしていると、先人の知恵を目前にする機会を得ます。自分にない知恵や技術を受け取れるばかりか、郷土文化が受け継がれる流れの中に身を置かせてもらえているのだと思うと感慨深いです。
アベさんは国内外を旅する中で、このようなことを体験されたことはありませんか。旅先で出会った郷土料理で美味しかったものと、それにまつわるストーリーを教えてくれたら嬉しいです。今年こそリアルにお会いしたいので、それまで楽しみにしていますね。
小林幸